インドネシア・サツイ炭鉱におけるボルト支保システムに関する 解析的検討

                                                                               岩盤・開発機械システム工学研究室 修士2年 吉村 幸蔵

1.  はじめに

  日本は世界最大の石炭輸入国であり、主要な輸入先のひとつがインドネシアである。現在、インドネシアの石炭生産量の99%は露天掘りで採掘されているが、 地形的・経済的に露天掘りでの採掘が困難あるいは環境破壊を伴うといった問題により、今後坑内採掘の必要性が増してくると考えられている。
  豪州の天盤ボルト支保システムを導入して坑内展開中であった南カリマンタン・サツイ炭鉱において、2005年11月掘進先で大規模な天盤崩落が発生し、4 名の被災者(内2名死亡)が生じた。原因については、天盤に打設されたボルトに過負荷が作用し、持ちこたえられずに天盤が崩落したと見られている。
  この事故を受けて本研究では、天盤崩落のメカニズムおよび天盤ボルト支保の効果について明らかにするとともに、サツイ炭鉱における最適なボルト支保システ ムについて検討するため、二次元有限要素コードPhase2および三次元有限差分コードFLAC3Dを用いて解析を行ない、種々検討した。

2. 解析モデル

 図1に解析モデルを示す。地表から深度91m, 141m, 191mまでは泥岩で構成され、ここからは共通して深度方向に、順に2.5mの炭層(SL2)、1.5mの泥岩、1.0mの炭層(SL1)、0.5mの泥 岩、そして坑道を掘削している3.5mの炭層、最深部に30mの泥岩で構成されている。坑道は直接上下盤に炭層を残して3本掘削し、幅は6.0m、高さ 2.5mである。天盤には、ケミカルアンカーボルトおよびケーブルボルトを打設し、坑道壁面は吹き付けコンクリートで補強した。アンカーボルトの直径は 21.7mm、長さ2.1m、打設間隔は1.0m、ケーブルボルトの打設間隔は前後5.0m、左右4.0mである。岩盤は弾塑性体とし、その破壊は Mohr-Coulombの破壊基準を用いた。


3. 解析結果および考察


1)天盤崩落のメカニズムについて
  現場付近で大量の湧水や坑内水が認められており、これらの水により天盤、特に泥岩が劣化し、その力学的特性が著しく低下したため、坑道周辺岩盤の破壊領域 が極めて大きいものとなった。その結果、破壊領域がボルト打設先端奥部まで達し、ボルト効果が得られなかったため、大規模な天盤崩落が発生したものと考え られる。


2)支保システムの改良およびその効果について
  まず、ロックボルトの長さを大きくすることで破壊の抑制効果が顕著に表れた。さらに2次支保としてケーブルボルトを打設するとともに、坑道内壁に吹き付け コンクリートを施工することで、さらにその抑制効果が得られることがわかった(図2参照)。しかしながら、図3に示すように、天盤に未だ大きな破壊領域が 認められることから、長期的な安定性が求められるメイン坑道としては、ロックボルト、ケーブルボルト、吹き付けコンクリートに加えて、鉄枠や木積等のスタ ンディングサポートの適用が必要であるといえる。また、水分による坑道周辺岩盤の劣化を抑制し、加えて安全な作業環境を維持する上でも、坑内湧水の調査や 監視、適切な排水システムの導入が必要である。



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