薬液注入工法における地盤内でのグラウト材の挙動に関する研究


 岩盤・開発機械システム工学研究室 4年 弥永 明宏


 
1. はじめに
 都市化の進行に伴って地下利用は高度化し、都市中心部のみならず広範な市街地道路における地中パイプラインの輻輳は増大の一途を辿っている。これまで、 地震や近傍の土木建設工事に起因するパイプラインの損傷・破断等により、重大な機能不全や道路陥没等の事故が生じることに留まらず、近年ではパイプラインの老朽化に起因する道路陥没の箇所数が増加していることも判明している。パイプラインの破断や道路陥没に到る原因は材質や構造により異なるものの、その修復、対処には甚大なる労力が費やされてきた。
 この実情から、パイプラインの機能低下・事故防止・震災への対応に優れた管渠更生工法が近年開発されて供用されている。これらの更生工法は、パイプラインに生じた蛇行・たるみを開削工法によって所定の位置に修復する方法を主とするが、 交通支障、騒音、振動等の建設公害への対処が問題となっており、 特に都市部における適用は非常に困難である。このような現状から、 建設公害の問題点を解決するために、パイプラインの蛇行・たるみ計測から破損や破断等の修復までの一連の施工工程を非開削工法で実施するという要求が高まって来ている。
 以上の観点から、 本研究では、グラウチング技術を応用した非開削工法の適用に伴う地盤内でのグラウト材の挙動メカニズムを解明するために、ある粘性を持ったグラウト材が地盤に浸透する状況を示す目的で一般的に用いられるMaagの式 により、本工法におけるグラウト材の礫・砂・泥地盤への浸透状況について検討した。さらに、グラウト材の礫・砂・泥地盤に対する模擬注入実験を行い、本工法における地盤内でのグラウト材挙動に対する評価方法としてのMaagの式の妥当性について検証した。


 2. Maagの式
 Maagの式はグラウト材が注入孔から球状に浸透していく場合に適用され、@グラウト材の浸透は層流であり、Darcyの法則に従う。A地盤は均質で無限に続き、拘束するものはない。B注入範囲は地下水位下にあり、地下水は静止している。Cグラウト材の比重は水と大差なく、浸透時の重力の項は無視できる。Dグラウト材の粘性は一定で、ゲルタイムは無視する。という5つの仮定のもとに導かれた式であり、最終的に式(1)の形で得られる。


3. 検討結果の一例
 模擬注入実験の結果、礫については図1に示されるように、グラウト材は綺麗な球状に浸透、固化していた。Maagの式を適用する場合、浸透領域は球状であることが条件であることから、この結果より礫については本工法における地盤内でのグラウト材挙動の評価にMaagの式を適用することは可能であることが予想される。そこで、礫における実験結果とMaagの式による計算結果を比較し、礫におけるMaagの式の適用性の可否を検討した。表1に結果を示す。



 この表より、実測値と計算値の差は、0.05MPaについては若干の差が認められるが、それよりも小さな圧力の場合には、ほぼ一致していると考えても差し支えない。また、実際の注入においてはゲルタイムなどのファクターが影響を及ぼすと考えられるため、これらの差は誤差の範囲内であると考えることができよう。したがって、本工法の施工において対象地盤が礫である場合、注入後のグラウト材の注入状況をMaagの式により評価できることが分かる。
 

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