インドネシア・露天掘り石炭鉱山における
斜面法尻周辺の安定性に関する数値解析的検討

 岩盤・開発機械システム工学研究室 4年  田中 博章

1. はじめに
 日本は世界最大の石炭輸入国であり、主要な輸入先のひとつがインドネシアである。現在、インドネシアの石炭生産量は年間1億9千万トン(2006年)にのぼり、その99%は露天掘り炭鉱からの出炭であり、坑内掘り炭鉱は未だ数か所にすぎない。
 しかしながら、剥土比の上昇、地形的に露天掘りが困難あるいは環境破壊を伴うといった問題により、年々採掘条件が悪化し露天掘りの適地が少なくなってきている。このような現状から、インドネシアの露天掘り炭鉱では坑内採掘への移行が計られつつあり、本研究対象とするSKB炭鉱では、終掘ピットのハイウォールから坑内採掘への展開が検討されている(図1参照)。
 そこで本研究では、終掘ピットのハイウォールから坑内採掘へ展開する際の坑口位置にあたる斜面法尻周辺の安定性に着目し、斜面法尻付近の安定性ならびに坑口の安全性を確保するための最適な斜面設計ならびに各種対策について、二次元有限要素解析により種々検討した。

2.解析モデル
 本研究では、非線形二次元有限要素解析コードPhase2を用いて、SKB炭鉱におけるピット斜面の安定性解析を行った。図2に解析モデルを示す。このモデルは、当炭鉱で坑内採掘の開発対象ピットとされているSarang Burungピットを模したものである。
 岩盤は弾塑性体とし、その破壊条件にはMohr-Coulombの破壊基準を用いた。表1に解析に用いた岩石の各種力学的特性値を示す。
 なお、これらの値は現場でボーリングコアから採取した試料を力学試験に供した結果を用いた。本解析では、まず現状におけるピット斜面法尻周辺の安定性を評価した後、剥土によりハイウォールならびにフットウォールのデザインを種々変更した際の斜面法尻周辺の安定性の変化について検討した。


3.解析結果の一例                         
 結果の一例として、図3に現在のピット形状およびハイウォールにベンチを設けた場合の解析結果をそれぞれ示す。図中のコンター分布は安全率を表し、×印はせん断破壊、○印は引張破壊した要素を表す。これらの図より、剥土によりハイウォールにベンチを設けることで、斜面法尻付近の安定性が改善されることがわかる。




4. まとめ

  本研究より、以下のことが明らかになった。

   現在のピット形状では、斜面法尻周辺に安定性の低い領域ならびに破壊領域が認められることから、坑口の安全性を確保するためには、ピットデザインの変更、斜面への落石防止柵の設置、また基幹坑道における坑口周辺の支保の強化ならびにライニングの厚さを増すなどの対策が必要になると考えられる。
   剥土によりハイウォールの傾斜を緩やかにする、あるいはベンチを設置することで、斜面法尻周辺の安定性が改善されることが分かった。なお、最適設計ならびに各種対策を選定する際には、安定性評価の他、剥土量、コスト等を含めて総合的に判断する必要がある。
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