フライアッシュを用いた大口径推進用硬化型注入滑材の開発に関する研究

岩盤・開発機械 システム工学研究室4年 高橋裕樹



1.はじめに

 推進工法は、種々の技術開発により、これまで困難とされてきた1kmを超える長距離施工や、交差部を直角に曲がるような急曲線施工まで可能となってき た。さらに、昨今の推進技術の進歩により、施工領域の拡大を目指した管径3,500mm〜5,000mmの分割推進管が開発され、シールド工法の適用領域 である3,000mm以上の施工に対しても大口径推進工法が適用されるようになり、今後益々大口径に対する需要が増大することが予想される。
 推進工法の施工では、施工中の地表面沈下や陥没などに伴う既設構造物への影響を与えず、要求された施工精度を満足した構築が要求される。すなわち、推進 工法を用いて良好な施工を行うためには、施工中に推進管外周面での抵抗や地山の変状を効果的に抑制することにある。そこで、本研究ではこれらの問題を解決 するために、大口径推進工法の管周ボイドに注入される滑材に関する検討を行った結果について述べる。

2.滑材に要求される条件

 管周ボイドに充填する滑材の推進力低減以外の機能条件としては、@地盤への浸透抑制により管周ボイドの容積減少を防止すること、A地山荷重の土被り圧に 対抗して掘削により取り除かれた地盤の掘削面を崩壊させることなく保持すること、B周辺地盤からの地下水の影響を受けないこと、C推進管外周に発生する管 周ボイド内への充填性に優れていること、などが必要である。
 推進工法では、近年の長距離化や急曲線施工に伴い、管周ボイドの安定を図るために、現状では可塑性滑材を主充填材として使用する二層注入方式による施工 が主に行われている。しかしながら、二層注入方式に用いられる種々の可塑性滑材が市販されているにも関わらず、管周ボイドに土被り圧や曲線推進時に反力等 が作用した場合、市販の可塑性滑材は、滑材内に存在する間隙水が容易に排出され減容化するため、管周ボイドを保持する機能が大幅に低下し、推進力が急増す ることが判明している。この解決のためには、新しい充填用滑材、すなわち高流動性、材料不分離性および水密性等の機能を有する滑材を開発する必要がある。

3.フライアッシュを用いた大口径推進用硬化型注入滑材の開発

 市販の可塑性滑材の成分は、主に珪酸ナトリウムを主成分としたA液と重炭酸ナトリウムや重炭酸カリウムを成分とするB液の二液で構成されている。しか し、B液の主成分である重炭酸ナトリウムあるいは重炭酸カリウムの水との接触による溶出が施工上の問題を引き起こすため、重炭酸ナトリウムあるいは重炭酸 カリウムの替わりにフライアッシュを主原料とした硬化型滑材を開発することにした。すなわち、推進工法で最も困難とされる管周ボイドに注入される滑材の経 時劣化を抑制し、かつ施工時の管外周面の抵抗を抑制するため、フライアッシュのボールベアリング効果ならびに強度遅延発現効果作用にこれらの問題解決を期 待した。
 そこで、A液は市販されている可塑性滑材の配合で、B液は表1に示すような配合量でA, B液を混合することにより、3種類(以下C50, C100, C150)の硬化型注入滑材を作製し、ゲルタイム測定、容積変化率計測、一軸圧縮試験および摩擦係数計測を行った結果、今回考案したフライアッシュを混入 した硬化型注入滑材は、市販の可塑性滑材が有する特性値とほぼ同等以上の性能を有することが分かった。


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