インドネシアKPC鉱山における岩石の地化学試験
岩盤・開発機械システム工学研究室  4年 池松 恭子

1 はじめに
 現在、鉱山開発に伴うリハビリテーションで最も問題視されているのは酸性鉱排水(Acid Rock Drainage;以下、ARD)問題であり、これに関してはNet Acid Generation(以下、NAG)試験結果を基にして種々の対策が施されている。しかしながら、夾炭層岩石のスレーキングによるリハビリテーション後 の周辺環境への影響とNAG試験結果の関連性については未だ十分に検討されていないのが実状である。
 そこで本研究では、露天掘り鉱山におけるARD対策に関する問題の抽出とその対策について、KPC(Kaltim Prima Coal)鉱山で実施されているNAG試験およびスレーキング問題を考慮したリハビリテーションプログラムについての検討を行った。

2. NAG試験およびスメクタイト含有量の測定と考察
2.1  NAG試験およびスメクタイト含有量の測定
 KPC鉱山中のPit Jに的を絞り、調査孔R25013、R25018から採取したコア試料をNAG試験とスメクタイト含有量測定に供した。スメクタイト含有量の測定には、メ チレンブルーの吸着による方法を用いた。なお、X線の定性分析では、今回の全ての試料にスメクタイトの含有が認められた。

2.2 測定結果と考察
 NAG試験によってType 1や2と判定される箇所が多いが、一部Type 3や4の箇所も見られる。このため、NAG試験が適切に実施されているか否かについて調査するために、NAG試験後の試料を濾過しその後の状態をX線の定 性分析により確認したところ、ARD発生の主な原因であるPyriteはすべて酸性化し試料には残留していなかった。また、酸性水化はPyriteの量が 多いほど起こりやすいが、本研究で行った分析ではそのような結果は得られなかった。これは、試料に含有されているSiderite、さらには Dolomiteが大きく関与しており、この2鉱物が緩衝作用を起こすことでPyriteが多く含有しているにもかかわらず、アルカリ状態を呈したと考え られる。
 また、スメクタイト含有量の測定からは、NAG試験結果から判定されるTypeとスメクタイト含有率には相関性が認められないことがわかった。すなわ ち、今回の調査孔コアではNAFとされるType 1および2の試料においてもスメクタイト含有率が大きい。一方、日本の夾炭層岩石ではスメクタイト含有率が6%を超えるとスレーキングの程度が大きくなる という報告から判断すると、両調査孔のコア試料はかなりのスレーキング性を示すと推測される。これらのことから、PAF層のカバー材として表土近くに埋め 戻されるNAF層のスレーキングによる影響については無視できないと考える。また、Type 1や2に判定されたズリであっても、スレーキングによって細粒化が進めば弱酸性の酸性鉱山排水が発生する恐れもある。したがって、岩盤工学的な見地からの リハビリテーションプログラムについても検討する必要があると思われる。

3.まとめ
 酸性鉱排水の発生を防止するために各鉱山では、NAG試験を課すことは地球環境を考慮する上で必要不可欠ではあるが、本研究では、NAG試験と Pyriteの関係性と信頼性について検討し、さらには、リハビリテーションプログラムにおいて、スレーキングを考慮した岩盤力学的な観点からの検討も必 要であることを指摘した。

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