区  分

 

 氏  名

 吉 田 安 廣

論文題名    石炭燃焼灰を用いた空洞充填材の開発・適用に関する研究




 論  文  内  容  の  要  旨



 本研究は、現在我が国での一次エネルギー供給源として欠くことができない石炭の燃焼により、必然的に発生する石炭燃焼灰の有効利用を目指したものである。すなわち、石炭燃焼灰は現在までに最大約97%が有効活用された経緯はあるが、最近の社会情勢もあり、最大の利用分野であるセメント分野での利用に減少傾向が見られ、その他の利用分野の拡大や開拓が必要となっている。この実状を踏まえて、石炭燃焼灰の大部分を占めるフライアッシュの第二の利用分野である土木分野へのさらなる活用を図るため、フライアッシュを混入した材料の充填材への利用を目的とした。既に土木分野での充填作業には、種々の充填材が開発、利用されているが、施工現場の状況や施工方式、あるいは施工精度の向上要求等から、未だ充填材の改良や開発の余地が多く残っていると考える。

 本論文は6章から構成され、各章で得られた結果をまとめると以下のようである。
第1章は緒論であり、本研究の意義と目的を述べた。すなわち、まず石炭燃焼灰の現状における発生と処理、有効利用等を述べ、次にこの石炭燃焼灰、特にフライアッシュの物理化学的諸性質の調査、土木分野での有効利用の可能性の検討等を行い、土木分野の各種の充填材への利用に目的を定めた。

 第2章では、まずフライアッシュをセメントに混入したセメントを採り上げ、このフライアッシュ混入セメントの一般的なグラウト充填材としての利用の可否について、種々の室内試験や調査、現場試験等を実施し、従来使用されている各種充填材と比較により検証した。この結果、フライアッシュ混入セメントは、ポンプ圧送が容易で充填性に優れ、注入箇所から周辺地山への流出が少なく、またブリージングが小さく、材料分離が少なくて均一な強度が得られ、固化後の体積減少が小さい、さらには注入後の熱応力によるひび割れ、熱劣化が生じ難い、等々のグラウト充填材としての優れた特徴が認められた。ただ、強度の発現が遅くなるという欠点が現れたが、施工現場によってはフライアッシュの混入量の調整で十分対応が可能であるため、フライアッシュ混入セメントは、グラウト充填材として利用が十分可能であることが分かった。

 第3章は、ライフライン敷設の重要な推進工法での管周ボイドにおける充填材の開発である。推進工法では、最も重要な点として地表面沈下・陥没をはじめ既設構造物等に影響を与えず、要求された品質を持った管の敷設を行わなければならないが、この問題点解決への重要な対応は、管周ボイドの適切な構築と保持であるとされている。現在、管周ボイドには可塑性滑材と呼ばれる滑材が注入されているが、これらの可塑性滑材は、容易に水に希釈し、強度劣化が認められる等の幾つかの欠点を有しており、工事完了後の裏込再注入が必要であった。
このような実状から、まず既存の可塑性滑材が持つ機能を再検証して不十分な点を明確にした。次に可塑性滑材の不十分な問題点の解決を図るため、フライアッシュを用いた硬化型の注入滑材を開発した。この硬化型注入滑材は種々の試験の結果、既存の可塑性滑材に比べて、ゲルタイムが長く充填性に優れ、減容化せず、地山の緩みおよび地表面への影響を防ぎ得ること、また高強度を有するものほど摩擦係数が低くなり優れた推進力低減効果が発揮されること、等の優れた機能を有していることが分かった。さらに、これらの利点は推進施工後の圧密注入する工程が不要になる可能性も示唆しており、この点も含めて総合的に優れた硬化型注入滑材と考える。

 第4章は、現行のライフライン、特に下水道の老朽管渠の非開削更生工法における中込材の開発である。すなわち、近年の下水道管渠の老朽化の急速な進行に伴い、この老朽管渠を改築、更新するために、非開削の管更生工法が脚光を浴びるが、更生工法では、既設管と更生管を一体化するための中込充填材が必要となる。この中込充填材は要求強度が様々で、かつ水中における充填が要求されるが、既存の中込材は水中で分散し易く、イオン溶出による周辺環境への負荷が懸念され、また高濃度ではポンプ圧送し難く、充填性が悪いという欠点があった。このような実状から、新たに管更生用中込材としてフライアッシュとセメントと新種の界面活性剤の混合材料(以下、VMFC)を開発した。このVMFCの中込材としての実用性を周辺環境に及ぼす影響を含めて、種々の試験や分析により検証した結果、管更生用中込材VMFCは、ブリージング抑制、固結後の膨張性、高流動性および水中不分離性等の優れた性質を呈すことから、高性能で効率的な管更生用中込材として期待することができる。また、周辺環境へ与える影響も問題がないことが分かった。

 第5章では、第4章での管更生用中込材VMFCの開発によって判明したフライアッシュとセメントと界面活性剤の混合材料の優れた機能性を利用して、海面埋立廃棄物処分場建設における鋼管矢板工法での狭隘な継手遊間への海中シーリング材として用いる充填材として新たな混合材料(以下、VTFC)を考案し、この材料の適用性について、従来使用されているモルタルやCMC系水中不分離剤添加モルタルとの比較試験により検証した。この結果、VTFCは材料不分離性、水中不分離性および充填性に優れ、このため圧送性が良く、また水中においての材料の均質性が保たれて強度の偏りを防ぐことができるため、シーリング材としての高い遮水性能が確認された。したがって、高い透水抵抗性と鋼管矢板継手遊間への充填性に優れるVTFCは、既存の水中不分離モルタルの代替充填物として十分利用できることが認められる。

 第6章は結論であり、上述各章を総括したものである。


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