区  分

 

 氏  名

 大 屋 二 郎

論文題名

インドネシア露天掘り石炭鉱山における酸性鉱山排水抑制のための
リハビリテーションシステムに関する研究




 論  文  内  容  の  要  旨



 インドネシアの露天掘り石炭鉱山では、夾炭層岩石に黄鉄鉱を含む酸化し易い層が確認されており、熱帯雨林気候の多雨と相まって鉱山排水の酸性水(Acid Mine Drainage;以下AMD)化が顕著になっている。また、近年の環境問題に対する関心の増加に伴ってAMD問題への対策が強く求められている。この意味から本研究は、終掘後もAMDの発生を防止するために、適切なリハビリテーションによるダンピングエリアからの酸性水発生を抑制する適切な埋め戻し法の開発指針を得ることを目的として行ったものである。すなわち、採掘廃石の諸特性とAMD発生、締め固め廃石およびフライアッシュを用いたカバー材によるAMD抑制効果、およびリハビリテーション区域の再緑化モニタリング評価法、等々について各種実験、現場計測および解析により検討を行ったものである。

  第1章は緒論であり、AMD問題の発生メカニズムおよび対策意義について述べた。さらに、既往の研究においてのAMD問題対策法の概要および特徴について述べ、最後に本研究の目的について述べた。

  第2章では、インドネシア露天掘り石炭鉱山のAMD発生およびNet Acid Generation(以下、NAG)タイプ別埋め戻し法の適応可否について検討を行うため、夾炭層岩石の諸特性の把握を行った。すなわち、まず夾炭層岩石を用いたNAG試験からAMD発生可能性について検討を行い、次にはAMD抑制対策が必要な炭鉱でのNAGタイプ別埋め戻しによるAMD対策法の適用について検討を行うため、夾炭層岩石のスレーキング特性および強度劣化特性が同対策法に与える影響についての解明を行った。その結果、Tanjung Enim炭鉱およびBerau炭鉱では、大部分の夾炭層岩石がPotentially Acid Forming (以下、PAF)と判定されたためAMD発生が顕著であると推定された。そこでNAGタイプ別埋め戻し法の適用が検討されたが、カバー材として用いるNon Acid Forming(以下、NAF)廃石のスレーキング性が非常に高く、NAF層のスレーキングによる細粒化、さらに夾炭層岩石の含水率増加に伴う著しい強度劣化によって、カバー材としての役割を失う危険性が示唆され、同対策法の適用は困難であることが判明した。

  第3章では、前章でAMD抑制対策の必要性が示唆されたことを踏まえ、鉱山排水の水質測定を行い、酸性水の発生状況を把握するとともに、測定結果を鉱山区域内全水系統についてまとめることによって酸性水発生箇所予測を行うという手法で、AMD抑制対策が必要なダンピングエリアの特定を行った。さらに、水質測定結果により採掘ピット内での酸性水発生メカニズムを解明するとともに、ピット内での酸性水発生量予測を行い、ピット内でのAMD抑制について検討を行った。その結果、酸性水発生状況は前章で得られた結果と一致し、酸性水発生箇所はピット内およびダンピングエリアからの2つに大別された。また、水質データを鉱山区域全水系統についてまとめることで、酸性水を発生するダンピングエリアの特定が可能であり、さらにピット内に流入する降雨量を得ることで、ピット内で発生する酸性水の発生量予測が可能であることが判明した。

  第4章では、第2章の結果およびBerau炭鉱のようなNAF廃石の不足状況を踏まえ、少量のNAF廃石で十分なカバー材の役割を発揮させるために、採掘廃石に含まれる粘土分に着目し、採掘廃石の締め固めによる難透水層の構築という新たなAMD抑制システムの構築を試みた。すなわち、廃石の締め固め特性および透水性の関連性を現場および室内での各種実験から検討した。その結果、現場に作製した盛土では、高含水条件下での締め固めが効果的で透水係数の減少は確認されたが、難透水性条件を満足しなかったため適切な締め固め荷重を求める必要が示された。そこで室内での締め固め試験を行った結果、粘土鉱物の膨潤圧による締め固め現象の遅延により、締め固め初期載荷時においては締め固め挙動に差異は認められるものの、その後の挙動については差異が認められず、NAF廃石を地表から2.0〜4.0m程度埋め戻せば、その自重の締め固めによって難透水層を構築することが可能であることが分かった。さらに、ダンピングエリアに既に被覆された表土下部の廃石の透水試験結果より、廃石上部の表土の被覆厚が1.5m以上であれば、地圧による締め固めによって難透水層が構築されていることが分かった。

  第5章では、フライアッシュを用いたAMD抑制法について検討した。すなわち、第3章の水質測定結果より判明した排水の酸性水化に伴う重金属イオンの溶出、および前章で述べた締め固め廃石を用いたカバー材によっても防ぐことができない水・酸素の浸透で発生すると考えられる酸性水の抑制法について検討を行うため、フライアッシュをカバー材の一部として用いることによるAMD抑制効果についての解明を行った。その結果、フライアッシュを黄鉄鉱含有層の上部に被覆した場合、フライアッシュから溶出した水酸イオンが黄鉄鉱含有層に浸透し、黄鉄鉱から溶出される水素イオンと中和反応を起こすのに対し、フライアッシュと黄鉄鉱を混合した場合では、これらの混合による相互作用によって水素イオン濃度が増加し中和反応が低下したため、前者の方がより効果的に酸性水を中和することが判明した。さらに、フライアッシュの被覆割合について検討を行った結果、黄鉄鉱およびフライアッシュの総重量に対するフライアッシュの重量割合と排水pHの関係に従えば、インドネシアの排水基準(pH=6~9)を満たすのは、フライアッシュの被覆割合が15〜35%程度であり、PAF廃石の黄鉄鉱含有量の平均が約1.5%であることから、フライアッシュの被覆割合はPAF廃石の約0.2〜0.5%程度であれば、排水基準を満足することが分かった。

  第6章では、第4,5章において締め固め廃石またはフライアッシュを用いたカバー材によるAMD抑制効果を維持させるために必要であるカバー材の侵食を抑制するために、リハビリテーション区域の再緑化モニタリングについて検討した。すなわち、降雨によるカバー材の侵食を抑制するためには、AMD抑制対策を施したダンピングエリアに表土を被覆し再緑化を行い、さらに再緑化度についての長期的なモニタリングを行うことが必要である。そこで、リハビリテーション区域の簡易的な広域調査および明瞭なデータ化が可能な再緑化モニタリング評価法について検討を行った。その結果、リモートセンシング技術の1つである衛星画像を用いた土地被覆分類法により、ダンピングエリアの再緑化度について解析を行った結果、土地被覆分類の植生区分について森林の生育年数に基づいて細区分し分類を行うことが可能であり、各ダンピングエリアの水質測定データと併用することで、リハビリテーション区域の森林回復率とAMD発生についての長期的な評価が可能であることが判明した。

  第7章は結論であり、上述各章を総括したものである。


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