区  分

 

 氏  名

 山 岡 礼 三

                   論文題名         地中埋設管の静的拡径に伴う周辺地盤の変形に関する研究



 論  文  内  容  の  要  旨



 わが国の社会基盤整備においてのライフライン事業は、特に重要な事業である。その中でも下水道事業は、明治初期の横浜および東京府神田における下水道建設を嚆矢として百十年を数える歴史を有しており、管渠の総延長は平成17年度末までに38万km に達し、環境を守り生活を支えるために必要不可欠な都市基盤施設として重要な役割を果たしている。しかし、長い年月をかけて整備されてきた下水管渠の中には、搬出下水量の増加による流下能力不足や老朽化、作用する荷重の増大や近接工事による影響、地盤の不等沈下等により破損し機能不全となっているものも多い。また、下水管渠の老朽化等に起因する道路陥没は年々増加し、平成17年度には全国で約6,600箇所発生しているが、その約6割は人身事故等につながる可能性のある重大な陥没であった。このような状況下で、管渠の再構築はこれまで開削工法による施工を中心として行われてきたが、都市部の社会環境等の変化により開削工法による施工が著しく困難となり、最近では非開削工法である改築推進工法の開発が数多くなされている。
 以上のような状況を踏まえ、筆者は損傷あるいは劣化した既設管の内部に破砕機エクスパンディット(以下、EXP機)を引き込み、既設管の内部から押し拡げるように破砕して、その中に新設管を押し込む方式であるエクスパンディッド工法(以下、EXP工法)の開発と実用化を進めてきた。本研究は、このEXP工法による損傷および劣化管渠の改築の際、最も問題となる周辺地盤ならびに改築既設管近隣に設置された他のユーティリティへの影響について明確にするために、実験的、解析的に種々検討し、EXP工法の実用化の指針を示したものである。

 本論文は8章で構成される。第1章は緒論であり、下水道管渠の現状について述べ、改築推進工法の必要性について論じるとともに、研究の背景および本研究の目的について述べた。

 第2章では、各種改築推進工法について説明し、本研究で取り挙げたEXP工法の施工方法について詳述した。すなわち、改築推進工法では、新設管を既設管の同位置に、管径を縮小せず設置するためには何らかの手法で既設管を取り除く必要があるが、EXP工法以外にも空気圧による衝撃式や回転式の切削方式、鞘管を利用した引き抜き方式などの工法がある。そこでまず、これらの工法に関する調査を行い、新設管敷設時の地盤への影響に関連する問題点について整理した。また、本工法の開発に至るまでの背景および開発経緯について纏めるとともに、EXP機の仕様ならびに本工法の施工手順について述べた。

 第3章では、管渠の再構築に関わる施工管理や周辺環境に与える諸問題を解決するために、まず地下空洞の拡径に伴う地盤変状に関する研究を調査し、課題解決に向けた具体的な検討項目について抽出した。次に、改築推進工法に絞って、既往の理論的研究、室内実験、現場計測および施工ガイドラインを調査した結果、改築推進工法では拡径に伴う離隔量と地盤への影響の程度を把握することが必要不可欠であることが判明した。この結果を踏まえて、地表面や地盤内部の変状を中心に調査する現場計測計画および数値解析方法を提案した。

 第4章では、開発したEXP工法を用いた拡径に伴う地盤変状について把握するために、模擬地盤への実証実験を行った。この実験では、既設管渠の管径および種類が異なる場合の拡径に伴う既設管の鉛直方向と水平方向に対する地盤変状を計測し、管径、拡径量、土被り量について既設管からの離隔量と変位量の関係について整理した。その結果、EXP機通過時の管上方向の鉛直変位の経時的計測を含めて、上方向と側方向の詳細なデータを得ることができたが、鉛直方向および水平方向ともに管直近の拡径量と同じ変形から、離隔量が増すにつれて急激に減少し、離隔量が100cmになると10%以下になることが明らかとなった。

 第5章では、二次元FEM解析によって様々な土被り量や土質条件に対する拡径に伴う地盤変状について検討した。すなわち、管径、拡径量、土被り量およびN値の拡径に伴う地盤変状への影響について明確にするために、これらの条件を変化させた場合の離隔量と地盤の変位量の関係を求めた。その結果、管径、拡径量、N値が増大するとともに地盤の変位量が増大するという結果に加え、下水道管渠のように土被り量が小さい場合、離隔が大きくなるにつれて水平方向変位は鉛直方向変位より顕著に減少する傾向にあり、土被り量が小さい場合には拡径に伴う地盤変状は、舗装の有無の影響が顕著に認められることが判明した。

 第6章では、EXP工法の施工方式、すなわちEXP機の進行は段階的な拡径および縮小工程が繰り返されるが、これを考慮するために、前章の二次元FEM解析に加えて三次元FEM解析による検討を行った。その結果、約10cmずつEXP機径の拡大および既設管の破砕、EXP機径の縮小、EXP機推進の過程を繰り返すことにより、周辺地山への変形量の大きい箇所は拡径箇所の後方に移動することをはじめ、EXP機通過後も拡径に伴う周辺地山の変形は新設管の外径寸法まで収縮し、最大拡径時の変形量よりやや小さい変形量を示すことが判明した。また、二次元および三次元FEM解析により得られた施工終了後の離隔量と変位量の関係を比較したところ、三次元FEM解析結果は二次元FEM解析により得られたそれらと大差がないことが確認されたことから、二次元FEM解析に依っても十分周辺地山および周辺構造物の変状や影響等についての検討が可能なことが裏付けられた。

 第7章では、第5章の解析結果を受けて、拡径破砕に伴う周辺地盤変位推定法および近接管への影響として、変位量と離隔比の関係式を求めた。すなわち、変位量は管上方向の地盤の鉛直方向変位と管側方向の水平変位を採用し、離隔量は管外端からの純離隔と管外半径の比である離隔比で表して第5章の解析結果を整理したところ、種々の拡径量に対して管外端からの離隔比により変位量を推定することが可能になった。また、この結果から得られた推定変位量を基にして、拡径に伴う地盤の変形量が及ぼす近接管への影響について検討した結果、近接管は管の種類、管径、離隔および既設管との交差角によって影響は大きく異なり、平行配置の近接管では拡径に伴う影響がほとんど認められないのに対し、直交管への影響は極めて大きいことが判明した。

 第8章は結論であり、上述各章を総括したものである。


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