論   文  要  旨

区分


(ふりがな)
氏      名
 うえだ  たけし
 植 田   武
論 文 題名
リハビリテーションを考慮 した露天掘石炭鉱山の開発に関する研究



         論 文 内 容 の 要 旨

 現在、世界的に見て石炭の採掘は露天掘が主流であり、稼行炭層の深部 への移行が今後徐々に進行すると思われるが、地球的規模での環境問題への取り組みがなければ、依然露天採掘の優位性は揺るがないと思われる。特に、最大の 石炭輸出国であり、日本への最大輸出国であるオーストラリアでは約78%が露天掘炭鉱から生産されており、日本への第3位の輸出国であり、今後とも生産や 輸出が増大すると予測されているインドネシアに至っては3炭鉱を除いて全て露天掘炭鉱であり、実に生産量の99%以上が露天掘鉱山からである。一方、露天 掘採掘では、剥土及び採炭だけではなく、埋め戻し、環境対策、及びリハビリテーションまで考慮する必要があるが、これまでリハビリテーションまでを考慮し た石炭鉱山の開発に関して学術的に検討したものはほとんどないのが実情である。
 石炭鉱山開発における環境問題としては、調査段階における広域物理探査における道路の建設や探査ボーリングに伴う作業用水の取り扱いに始まり、開発初期 における森林の伐採、表土・被覆岩石の除去、本格的な生産開始からの発破振動、発破音、飛石、粉塵問題、ハイウォール、ローウォールの安定性、廃石場設置 とその安定性、選炭排水や鉱山酸性水、塩水化、降雨による浸食による河川水・地下水汚染、終掘後の跡地における環境問題等、多くの環境問題が山積してい る。従って、鉱山開発に伴う環境問題に対して十分に対応できない場合には、開発中止や操業中止に追い込まれることもあり、さらにまた、終掘後の環境修復に 多大の出費を余儀なくされれば、採掘した石炭の販売により得た利益は費やされて終い、鉱山事業としての意義を失うことにもなりかねない。
 本研究では、海外、特にオーストラリアとインドネシアにおける露天掘炭鉱における開発、生産段階から採掘終了後のリハビリテーションについて種々の観点 から検討し、最適な鉱山開発とリハビリテーションについて論じた。また、露天掘鉱山で必然的に生じるハイウォールでの未採掘石炭を、効率よく安全に、かつ 経済的に採掘できるハイウォールマイニングシステムの導入を提言し、その有効性について論じた。このシステムは、未採掘で放棄される石炭を採掘できること から、広い意味での環境に与える影響を低減できるものである。これらの研究を系統的に行うことにより、石炭の大量輸入・大量消費国である我が国が石炭資源 開発のみならず、石油、天然ガス、メタンハイドレートなどのエネルギー資源の開発・利用における種々の地球的規模での環境問題に積極的に貢献できるととも に、これらエネルギー資源の安定供給にも十分資することができると考える。

 本論文は、緒論・結論の他に4章で構成されている。
 第1章は緒論であり、最近のデータを分析し、本研究の背景と基礎と なる日本のエネルギー情勢と石炭資源の重要性、安定供給について論じるとともに、石炭鉱山の海外開発における日本の役割について明確にした。また、本研究 の目的と意義について述べるとともに本研究の構成を示した。

 第2章では、露天掘炭鉱の開発及び採掘終了後に行われる環境修復作 業、すなわちリハビリテーションにおいて留意すべき事項について整理し、海外に新規の大規模な露天掘石炭鉱山を開発する場合の環境に与える負荷を極力低減 し、採掘終了後は環境修復するリハビリテーションにおける検討事項を吟味した。特に、リハビリテーションプログラムは開発調査段階から綿密に検討すべき項 目であり、この検討が不十分であると、開発の中止や操業停止、膨大な環境修復費による企業破綻に至ることもある。これまで以上の石炭の消費が世界的に拡大 することは必至であり、今後とも新しい石炭鉱山の開発が進行すると予想され、これまでの露天採掘には、ほとんど経験や実績のない我が国の石炭開発技術を海 外、特にオーストラリアやインドネシアで展開していく上で、環境を考慮した開発とリハビリテーションは極めて重要であることを指摘した。

 第3章では、オーストラリアの露天掘炭鉱において現在用いられてい る各種採掘法について調査し、採掘における種々の問題点を抽出し、整理し、環境に優しく、経済的で効率のよい採掘システムについて論じた。また、オースト ラリアにおける露天採掘鉱山の採掘計画について、オーストラリアが抱える問題点について吟味し、リデル炭鉱での新しい鉱区の開発においての最適な採掘シス テムについて検討した。さらに、インドネシア・東カリマンタンにおけるセパリ炭鉱開発における問題点を整理するとともに、新しい炭鉱を開発について炭層条 件に合致した採掘システムについて検討し、最適な採掘システムを提案するとともに採炭ピットにおけるハイウォールとローウォールの安定性について数値解析 により検討し、問題を解決すべき方策を提案した。

 第4章では、ハイウォールマイニングシステムの開発の歴史から現在 に至るまでを調査して、種々の問題点を指摘するとともに、オーストラリアの現場での現場計測を実施してその結果を分析し、より経済的、かつ安全な効率的シ ステムの構築について論じた。また、ハイウォールマイニングでの最大の検討課題は、ハイウォールの安定性維持と低い石炭の実収率である。すなわち、ハイ ウォールの安定性を確保するために大きな幅のピラーを残せばピラーの破壊は防止できるが、多量の石炭がピラーとして残されることになる。この相反する問題 を解決するために、適切な幅のピラーの選定を図って、採掘空洞を剥土岩や石炭燃焼灰で充填する方法について数値解析及び室内試験により種々検討し、この問 題の解決策を提示した。

 第5章では、インドネシアの代表的な露天掘石炭鉱山である Kaltim Prima Coal (KPC)炭鉱における開発から採掘生産中における環境問題や採掘終了後のリハビリテーションについて、主要な環境問題である水環境問題、特に酸性水化問 題を取り上げ、その発生メカニズムを論じ、これに影響を及ぼす岩石学的特性や力学的特性、スレーキング性について、各種室内試験を実施して種々検討すると ともに、酸性水化や浸食を抑制する方策について言及した。また、地表水のモニタリングと分析を行い、酸性水化や汚濁化、重金属の溶出について明らかにし、 環境に配慮した生産やリハビリテーションが実施されていることを示した。

 第6章では、本研究の成果を総括し、結論とした。



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