論   文  要  旨

区分


(ふりがな)
氏      名
かわい たかし
川 合   孝
論 文 題名
推進工法における管周ボイドの実態と滑材に関する研究



         論 文 内 容 の 要 旨

 近年都市部では、輻輳する既存の埋設物や交通渋滞、社会情勢、社会コ スト等による影響から、開削工法によるライフライン等の敷設が次第に困難になり、この工法に替わる推進工法の需要が急増してきた。この背景から推進工法で は数多くの施工実績が積まれ、長距離推進、急曲線推進、大口径推進等の技術開発が積極的に行われ、従来のシールド工法施工分野まで進出している。しかしな がら、推進工法はこれまで工学的に脚光を浴びてこなかったため、施工適用範囲が飛躍的に拡大しているにも拘わらず、理論的かつ系統的な技術検証がほとんど 行われてこなかったのも事実である。
 推進工法で最も重要な点は、地表面沈下、陥没をはじめ既設構造物等に影響を与えず、要求された品質を持った管の敷設を行うことにある。すなわち、設計線 形を厳守するとともに、切羽崩落、掘削土砂の過剰取り込み、裏込め注入不良による地盤変状を最小限に抑制し、さらに推進管にクラック等の損傷を回避して、 推進管全体を確実に推進する必要がある。従来からの実績や経験から、これらを実現するためには、推進管の周辺部の管周ボイドと称される部分に注入される滑 材と称する充填材の選択が重要とされている。しかし、この充填用滑材の系統的な研究は未だ不十分で、種々の材料の開発や試用が行われているのが現状であ る。
 以上の視点から本研究は、推進工法の良好な施工技術を確立することを目的として、管周ボイドに充填される滑材に着目したものである。すなわち、まず現在 用いられている滑材の特性や管周ボイドの挙動が推進力に与える影響を、施工現場の調査を通して再検証した。次にこの結果踏まえて、より機能的な新滑材の開 発を行うとともに、この新滑材の有効性を室内試験や現場適用試験により検討した。

 本論文は6章より構成される。第1章は緒論であり、推進工法の概要や管周ボイドの特徴について述べるとともに、推進工法の確実な施工に寄与する管周ボイ ドにおける充填方法技術の基本的概念を整理した。また、管周ボイドに要求される役割と課題を明確にし、注入充填される滑材の具体的な特徴および問題点を抽 出して本研究の目的を提示した。

 第2章では、管周ボイドに注入充填される可塑性滑材の賦存状況につ いて把握するために、推進管径3,500mmの施工現場を対象として、二層滑材注入方 式により形成される管周ボイドの充填実状を調査した。すなわち、まずグラウト孔から管周ボイド厚の計測を試み、次いで管周ボイド充填物の採取が可能な特殊 サンプリング管を開発して充填物を採取した。さらにグラウト孔からボアホールカメラを用いて観察した。これらの調査から、管周ボイドには可塑性滑材が観察 できず、また採取試料にもその存在が認め難いことが分かった。そこで、この可塑性滑材の浸漬試験を実施したところ水との接触による溶出性が認められたの で、可塑性滑材はこの特質によって周辺地盤へ溶出、流出したことが判明した。これらの調査結果から、この施工現場の管周ボイドの劣化の一因は充填材の不適 合にあることが示唆された。

 第3章では、前章の調査結果を踏まえ、現在用いられている市販の可 塑性滑材を対象として、それらの充填材としての可否性を、ゲルタイム、圧縮強度、加圧 浸透試験および浸漬試験によって評価を行った。その結果、管周ボイドに土被り圧や曲線推進時に反力等が作用した場合、これらの可塑性滑材は可塑性滑材内に 存在する間隙水が容易に排出され減容化するため、管周ボイドを保持する機能が大幅に低下することが判明した。また、可塑性滑材は水との接触による溶出によ り強度劣化が認められた。これらの結果は、管周ボイドの維持が不十分であれば推進力が急増するという事実を裏付けており、この解決のためには、新しい充填 用滑材、すなわち高流動性、材料不分離性および水密性等の機能を有する滑材を開発する必要があることが判明した。

 第4章では、前章までの結果から、新しい充填用滑材として、フライ アッシュと界面活性剤の混合材料を選定し、この新滑材が滑材として要求される機能を満 足するか否かについての検討を行うために、種々の検証試験を実施した。その結果、フライアッシュ界面活性剤混合材料は、フライアッシュの特徴である高流動 性や水密性、界面活性剤の特徴である水中不分離性やチキソトロピー性の効果等の機能が付加され、従来からの可塑性滑材では解決できなかった前述したような 問題を解決できる優れた機能を有する滑材であることが判明した。また、この新滑材はフライアッシュのベアリング性の効果により、管周面摩擦抵抗も従来から の可塑性滑材と同程度の性能を有することも判明した。さらに、フライアッシュに含有する六価クロムの管周ボイドへの充填後における溶出の有無について調査 した結果、環境基準値を満足することを確認し、環境保護の面からも優れた滑材であることを示した。

 第5章では、開発した新滑材を実施工現場に適用して実証実験を行 い、この実用性を検証した。すなわち、第3章の結果より、従来からの可塑性滑材の中で最 も優れていると判断された滑材および二次注入用に使用される粒状滑材とこの新滑材を管周ボイドに充填し、充填された滑材の賦存状態等を比較検討して総合的 な評価を行った。その結果、新滑材は、推進力低減効果や管周ボイドの保持機能が従来からの可塑性滑材や粒状滑材より優れていることが実証され、その実用性 が確認された。一方、新滑材は圧送性に劣ることが判明し、施工上何らかの対処法が必要となったが、この問題は既存の機器・技術で十分対処できる。

 第6章は結論であり、各章での結果をまとめるとともに、今後の課題 について述べた。
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