論   文  要  旨

区分


(ふりがな)
氏      名
あわた てるひさ
粟 田  輝 久
論 文 題名
小口径推進工法における先導体制御システムの開発ならびに前方探査技術 に関する研究



         論 文 内 容 の 要 旨

 日本の下水道整備は急速な勢いで普及を遂げており、下水管渠の施工延 長もこれに伴い大幅に増大している。この下水管渠施工法の選定にあたって、道路交通の確保、振動や騒音などの建設環境の確保、錯綜する地下埋設物対策、地 盤条件の困難性から、開削工法に替わって、推進工法などの特殊工法の採用が多くなってきている。こうした社会技術の影響を受けて、推進工法における施工延 長の推移が顕著になり、昭和45年度には推進工法による施工総延長は50kmに満たなかったが、平成15年度には1,200km程度に急増している。推進 工法が下水管渠工事として特に注目されている点は、工事規模がシールド工法に比較して極めて小さく、かつ開削工法に比して立坑以外に開削を必要としないこ とが挙げられる。しかしながら、都市部においては下水道の主幹線配備がほぼ完了し、現在は主な施工対象が枝線部に推移していることから、推進工法の中でも 口径が700mm以下の小口径推進工法の需要が急増してきている。これに伴い、小口径推進工法は施工条件が年々難化し、これらの施工環境に見合った新しい 技術や工法が研究開発され、これまで施工が困難であった帯水性や崩壊性地山、砂礫地山、さらには岩盤まで適用土質が拡大している。通常、道路下に布設され る下水管は私有地の地下を避けて計画されるため道路線形に沿ったものとなるが、推進機の発進ならびに到達回収用の立坑を構築する場所に制約を受けるため、 必然的に長距離、曲線施工の需要が増大する。このような施工を可能にするため、これまで複雑な線形でも対応できるマシン等のハード面の開発が積極的に行わ れてきたが、性能に見合った高い施工品質を確保できなかった事例が頻繁に発生している。この主な要因としては、マシンの運転操作を取り扱うオペレータのス キルや経験が満足なレベルに到達していない場合や熟練オペレータ数の不足等が挙げられる。そこで、本研究では以上のような理由から、小口径推進工法におい て、熟練オペレータ不足、施工品質の確保等の諸問題を解決し、かつ安全な施工を可能にするために、新たな計測技術の提案および学習機能を有する制御技術の 適用による解決を目指したものである。

 本論文は6章より構成される。第1章は緒論であり、これまでに用いられてきた推進工法の概要や小口径推進工法の特徴を整理、分析した。また、小口径推進 工法に用いられている位置・姿勢計測方式及び現在実施されている推進機の方向制御方法、泥土圧制御方法を調査し、施工品質を向上するためには推進機の位置 及び姿勢を正確に計測してこれらのデータを活用した自動化システムが必要であると判断し、解決に向けた本研究の目的について論じた。

 第2章では、まず従来の小口径推進工法における位置計測方法の具体 的な特徴と問題点を抽出した。次に、これらの推進線形や土被り等の施工条件による適用 制限および計測精度不良等の問題の解決に向け、プリズムを用いた新しい位置計測システムを開発し、フィールド実験を実施した。その結果、運用方法及び計測 精度において、小口径推進工法の位置計測方法として十分適用可能であることを確認した。また、これまでの位置計測方法同様、様々な適用上の制限を受けてい た小口径推進工法の姿勢計測において、アクロマティックレンズと2軸光電センサを用いた新たな姿勢計測システムを開発し、その精度検証を行った。その結 、計測精度の観点から小口径推進工法の姿勢計測方法として十分適用可能であることを確認した。

 第3章では、従来オペレータのスキルや経験に大きく依存していた小 口径推進機の方向制御において、オペレータに依らない高精度な施工品質を目指した自動 方向制御システムの検討を行った。まず実際の施工データを用いて、推進時に周囲地盤から受けるマシン各部の運動における拘束状態の定性的な解析から状態変 化モデルを構築し、推進時の先導体の挙動を明らかにした。次に、マシンヘッド角に対する先導体の旋回特性をARX (Autoregressive Model with Exogenous Input)モデルで表現し、状態変化モデルと組み合わせて旋回運動モデルの導出を行い、カルマンフィルタによる逐次状態推定シミュレーションによる推定 性能を評価した。さらに、旋回運動モデルを組み込んだ自動方向制御システムを構築し、実現場において評価実験を行い、旋回運動モデルを用いた自動方向制御 システムの有効性を示した。

 第4章では、泥土圧式小口径推進工法における泥土圧制御の自動化に 向けた検討について述べた。最適な泥土圧バランスを保持するために必要な推進速度、圧 送回数、添加材注入量の3パラメータによる泥土圧制御を自動化するために、3入力(推進速度、圧送回数、添加材注入量)、1出力(泥土圧)の線形時不変モ デルを用いた泥土圧特性モデルを構築し、小口径推進機の泥土圧挙動をモデル化した。次に、泥土圧特性モデルを組み込んだ自動泥土圧制御システムを構築し、 実現場において実証実験を行い、泥土圧特性モデルを用いた泥土圧式小口径推進工法の泥土圧制御システムの有効性を示した。

 第5章では、安全な推進進路の確保を目的に電磁レーダを用いた前方 探査方式の適用について検討した。まず小口径推進機に搭載可能な小型アンテナを製作 し、地上及び土層での性能検証を実施し、アンテナのビーム範囲及び探査距離を明らかにするとともにアンテナから発信されるレーダの地中減衰量を把握した。 次に、埋設物の有無および埋設物の位置情報の自動認識のために、先導体に設けた2つのアンテナにより位相差のある電磁波を発生させて埋設物を探査し、これ らの画像データを合成処理する新たな認識方法を提案した。また、画像処理結果の妥当性を評価するために、模型実験による実証実験を行い埋設物の位置を正確 に把握できることを示した。

 第6章では、本研究の成果を総括し、結論とした。
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