論   文  要  旨

区分


(ふりがな)
氏      名
よつもと  じゅんいち
 四  本   純 一
論 文 題名
泥水式推進工法における大口径推進管の敷設に関する研究



         論 文 内 容 の 要 旨

 推進工法は,内径3,000mm以下の都市ライフラインを敷設する上 で極めて有用な工法である。これまで,敷設される管径が3,000mm以上の場合には,主にシールド工法が用いられてきたが,設備費をはじめとする諸経費 が推進工法に比べて非常に高価であるため,推進工法の適用が可能な場合にはこれによる敷設が望まれている。このような背景から,社団法人日本下水道管渠推 進技術協会では内径3,000mm以上の管を推進工法で埋設する工法を大口径推進工法と定義し,現在内径5,000mmまでの内径を推進工法に適用可能か 否かについての検討が始められた。推進工法は,輻輳する都市部における重要構造物近傍での施工に重点が置かれているため,今後ますます難易度の高い施工や 品質向上が求められている。しかし,推進工法は,これまで数多くの施工実績を背景に長距離推進,急曲線推進等の技術開発がなされてきたため,工学的な見地 に立った検証がほとんど行われていないのが実状である。推進工法は,管敷設時に推進管全体を移動させなくてはならないため,シールド工法に比べて技術的に も高度であり,それの地山への与える影響について正確に把握することは極めて重要である。特に,大口径推進工法はこの影響が極めて大きいと予想される。

 推進工法の施工には,地表面沈下・陥没をはじめ既設構造物に影響等を与えずに要求された品質を持った管の敷設が重要である。すなわち,要求を満足する施 工を行うためには,マニュアル化による施工が必要である。良好な施工とは,切羽崩壊,取込み過剰推進,裏込め注入不良に伴う地表面沈下をはじめとする地盤 変状を最小限に抑制する状態であり,要求された品質を確保するためには設計線形を逸脱させず,推進管にクラック等を損傷させない必要がある。特に,大断面 の施工では,掘削時の地山取込み量を的確に管理し,推進管と切削外周に発生する管周ボイドを確実に確保・維持することによってこれらの課題に対処すること ができると考えられる。

 このような観点から,本研究は大口径推進工法の施工マニュアルを確立し,施工に起因する周辺地盤への影響が大きい大口径推進工法を確実に施工するため に,推進工法の特徴である管周ボイドについて着目し,泥水式大口径推進工法を対象とした推進施工時の管周ボイドの挙動を把握するとともに,これの地盤変状 に及ぼす影響について種々検討した。

 本論文は6章より構成される。第1章は緒論であり,これまでに用いられてきた推進工法の概要や大口径推進工法の特徴を考察した。また,周辺地盤に与える 影響として既往の研究のシールド工法における事前解析手法と推進工法を成立させるために不可欠な推進力低減に必要な管周ボイドにおける充填方法技術の調査 を実施し,推進工事に求められる品質向上として地盤に与える影響解析が必要であると判断し,解決に向けた本研究の目的について述べた。

 第2章では,これまで推進工法に欠如していた施工管理や周辺環境に 与える諸問題を克服するために,大口径推進工法の具体的な特徴と問題点を抽出し,切羽 および管周ボイドの挙動を検討するに必要となる実施工データの選定を行い,課題解決に向けた具体的な計測項目について検討した。その結果,推進工法では外 周ボイドの挙動を把握することが必要不可欠であり,地表面や地盤内部の変状及び管周ボイドに作用する土圧の計測を中心に現場計測計画を提案した。

 第3章では,長距離推進を行う場合,管周ボイドに充填される滑材が 推進管との摩擦による劣化を引き起こし施工が困難になることを未然に防ぐために推進管 理システムを開発し,このシステムの妥当性について現場試験により検証した。その結果,このシステムを用いることにより推進管に作用する推力を管列方向に 適当な間隔で計測でき,その情報をコンピューターに集約することで推力の距離減衰状況や経時変化を常時把握し,推力低減において効果的な処置を施すことが 可能であることを示した。

 第4章では,推進管径が3,500mmの世界一大きな施工事例を用 いて,推進工法に伴う地盤変状をシールド工法で実施されているAversin- Limanov,Jefferyの方法,有限要素法,Terzaghiの理論に基づいて予想計算をして検討した。また,大口径泥水式推進工事において,実 際の地表面及び地中における地盤変状,作用土圧等を測定することで,推進施工で発生する地盤変状について詳細に検討を加え,泥水式推進工法特有の推進管接 続時において還流ラインの切断に伴う泥水圧の保持ができない切羽管理方法での影響,また掘進機通過後に発生する掘削断面と推進管断面に発生する管周ボイド において崩壊している箇所が多々あり,管周ボイドの維持,可塑性滑材管理が重要であるとともに周辺地盤に大きな影響を与えることについて考察した。地盤変 状の実測値と計算値との比較検討により,周辺地盤への影響の事前予測においてJefferyの方法による結果は安全側であり,設計において十分適用できる ことを明らかとした。有限要素法における弾性解析では,泥水圧を作用させない場合の解析結果と実測値が一致していることから,推進工法においては掘削面に おける切羽圧を連続して加圧保持できないこと,また管周ボイドでの滑材充填による加圧保持効果が期待できないことを示唆した。推進管への作用土圧計測で は,地盤の緩み崩壊に伴う推進施工に与える影響評価を行い,管周ボイドの役割について評価した。さらに,管周ボイドの維持が重要であるということから,管 周ボイドへの充填を適切に行うことができる新しい方法であるDKIシステムの適用結果についても考察した。

 第5章では,管周ボイドの注入に適した可塑性型滑材の開発を行うに あたり,第3章の管周ボイドのボイド維持における可塑性滑材の役割と第4章の管周ボイ ドの観測結果より可塑性充填材料についての方法理論が一部成立していないことを受け,実施工において推進管背面からサンプリングを行い,可塑性滑材におけ る注入後の状態の評価として,可塑性材料の残留状況の確認結果及び浸漬試験等による材料劣化により現行材料の性状を明らかにした。さらに,可塑性材料に求 められる必要性能について泥水中への注入等施工方法を加味した方法で室内実験により材料の特性について評価し,地山状態に対応した新しい材料の選定の必要 性を指摘した。

 第6章は結論であり,各章での結果をまとめるとともに,今後の課題 について述べた。
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