論   文  要  旨

区分


(ふりがな)
氏      名
さかい  えいじ
酒 井  栄 治
論 文 題名
泥濃式推進工法におけるテールボイドの実態と地下空間構築工法への適用 に関する研究



         論 文 内 容 の 要 旨

 本研究は、我が国の生活関連を中心とした管路整備事業の中心的役割を 担ってきた推進工法の中で、20数年の実績を有しながらも、その工学的な検証に乏しい泥濃式推進工法に関し、過去の実績を整理し、その技術的背景を探り、 管外周面抵抗値や地盤変状および曲線内の管の挙動を検証し、新たな実証実験を通してその実態の観察や計測を行い、これまで経験でしか得られていなかった地 山挙動を明確にしたものである。また、数値解析による予測値と現場計測値を比較、検証しながらその地山挙動や泥水の挙動を的確に把握し、今後予測されるさ らなる大口径・長距離・急曲線掘削や巨礫、岩盤に富む複雑な地山条件に対応した泥濃式推進工法の技術指針を確立するとともに都市再生に伴う国土整備や地下 立体交差事業、交通結節点の地下駅整備事業および大断面地下空間構築工法のための防護工、NATMトンネルの補助工法として泥濃式推進工法を積極的に活用 するために矩形状の推進工法や複数空洞の施工等における問題点について検討したものである。

 第1章は緒論であり、トンネル技術の歴史やNATMおよびシールド 工法に伴う地盤変状の実態を調査し、地盤の挙動に関する考え方から推進工法における地 盤変状の背景を探った。また、推進工法の発達に至るまでの背景および開発経緯や過去の実績からの推進力の算定基準の変化を調査し、特に、泥濃式推進工法の 20年の実績からの推進延長、曲線半径、推進力や管外周面抵抗値の変遷を述べた。さらに、推進工法の技術的中心をなすテールボイドに関して、その考え方を 整理し、対策法について述べ、最後に本研究の目的に関して述べた。

 第2章では、地盤の安定性や管外周面抵抗値に大きな影響を与えてい ると考えられる切羽圧力の保持、およびその結果生ずる地盤への影響の解析、逸泥現象の 基になる泥水の挙動を浸透解析により検討するとともに、現場においてこれまで経験した泥水の挙動について解析結果を考慮し、掘進時における逸泥現象のメカ ニズムを考察した。

 第3章では、泥水の効果を得るためには確実に推進管と地山との間に 泥水によるテールボイドの充填が必要であることを実証するために実証試験を行った。こ の試験では第2章で行った泥水の浸透挙動解析や掘進時の実態の検証を行うために実際の円形・矩形による泥濃式掘進機を用いて、地山条件を変化させた地盤に おいて種々の実証実験を行い、掘進後の透水性の変化、地盤の変状計測、テールボイドの目視観察を行うとともに二次元有限要素法における地表面沈下の解析を 行い、実証試験で得られた計測結果と比較し、解析の妥当性を検証した。

 第4章においては、泥水により形成されたテールボイドが長距離・急 曲線施工では期待した効果を発揮できない場合が多く認められ、確実にテールボイドを確 保して管外周面抵抗値を低減させるための長距離・曲線推進用のテールボイド拡幅再構築装置(TRS装置)を開発し、無水層における風化シラス土での長距離 推進工事および極端に軸方向力の転換を行う急曲線推進工事に適用した。その結果、TRS装置による管外周面抵抗値の顕著な低減が認められ、TRS装置の適 用による泥濃式推進工法の適用範囲を難推進現場まで拡大できることを明確にした。

 第5章においては、今後増加すると予測される地方都市のインフラ整 備に対応する目的で、一般的に推進工法では高い推進力が必要とされる洪積地盤や岩盤層 の掘進に対応するため、破砕効果の高い岩盤掘進機の開発し、その能力を実証実験により確かめるとともに模擬岩盤における破砕効果や掘進速度の検証および TRS装置を使用した施工例から管周辺摩擦力の低減効果の評価を行った。その結果、巨礫対応多軸コーン型掘削機に岩盤の種類に応じたビットを取り付けるこ とで岩盤層を効果的に破砕し、適切な推進速度を確保できることを示した。また、岩盤推進においてもTRS装置を適用することにより、管外周面抵抗値が低減 され、岩盤層における低推進力施工が可能となり得ることを示唆した。

 第6章においては、活力のある都市再生の一環として行われている国 土整備事業で、都市部におけるNATMトンネルへの対応として、新しい地下空間構築工 法の確立のために泥濃式推進工法を種々適用した場合について述べた。すなわち、@都市部におけるボックストンネルの一次覆工に採用された泥濃式矩形掘進機 の評価、A回収機能付き掘進機の開発および九州新幹線NATMトンネルでの長距離先受け工の活用事例、B交通結節点の地下駅構築のための大断面トンネルの パイプルーフを使用した防護工の計画と二次元有限要素法による地盤変状予測の解析および沈下量の実態との比較、継ぎ手付鋼管推進時の圧入抵抗の検証を行 い、泥濃式推進工法を用いた地下空間構築工法の有用性について論じた。

 第7章では、研究成果を総括して結論とした。
 以上のように、本研究は泥濃式推進工法の技術的背景を明確にし、工学的に検証し、今後増加するであろう都市部におけるNATMトンネルに対しての補助工 法および地下空間の拡幅の防護工として、周辺環境に影響の少ない安全で確実な非開削技術として確立させる目的をもって様々な現象を工学的な見地からその実 態の背景を検証した。
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