論   文  要  旨

区分


(ふりがな)
氏      名
ささおか たかし
笹 岡  孝 司
論 文 題名
泥水加圧式推進工法における周辺地山の安定性維持のための泥水の効果
および補助施工に関する研究



         論 文 内 容 の 要 旨

 本研究は、わが国の都市部におけるライフライン等の管埋設工事で多く の現場で用いられている泥水加圧式推進工法について、推進開始から、推進中、推進終了後、さらには半永久的に周辺地山の安定性が確保され、効果的な施工を 行うだけでなく、周辺構造物および埋設物への悪影響および地表沈下を抑制する、安全で経済的な施工指針確立のための知見を得ることを目的として行ったもの である。本論文は、緒論・結論のほかに4章より構成されている。以下に各章の内容について概要を示す。

 第2章では、泥水加圧式推進工法で最も重要な因子である泥水に関す る項目を取り扱った。本工法では、泥水の機能すなわち、地山表面とその近傍において適 切な泥膜の形成とその浸透領域が形成されることが極めて重要である。そこで、本工法に用いられる泥水の物理特性や現場に適した配合比等を得るための基礎的 な資料を得るために、泥水の基礎物性試験および模擬地盤に対する泥水の泥膜形成や浸透試験、泥水の安定試験を行った。その結果、地山の特性、すなわち透水 性や地下水圧に適合した泥水材料の選定とその配合比の調節および管理により、泥水の機能として上述した両者の課題を十分に達成することが可能であることを 示した。

 第3章では、第2章での成果を踏まえて、泥水加圧式推進工法の根幹 をなす注入泥水の掘削地山への影響および浸透挙動等を解明するために、オイラリアン・ ラグラジアン法による浸透流−移流・分散数値解析を適用し、泥水加圧式推進における泥水の地山への浸透現象を検討した。さらに、この数値解析法を用いるこ とにより、泥水の地山への浸透様式をはじめ、泥水圧や泥水比重、地山特性と注入泥水の地山への浸透挙動ならびに泥膜形成の関連性等について明らかにした。

 第4章では、推進終了直後、掘削により生じた余掘り部を充填し、周 辺地山の安定性確保のため行われる裏込め注入について、経済的および効果的な裏込め注 入工の施工指針確立のため、裏込め材の粘性、流動性および固化特性等の基礎物性試験を行うとともに、数値解析により現在の裏込め注入システムの問題点の抽 出ならびに新たに提案した泥水排出孔を設置した置き換え注入システムの有用性について検討した。その結果、現在の裏込注入システムでは、余掘り部における 加圧された泥水の存在により、注入孔付近に局所的に裏込め材が充填され、余掘り部全体に均等に充填することが困難であることが明らかとなった。一方、泥水 排出孔を設置した改良裏込め注入システムでは、泥水排出孔の存在により余掘り部を充填している泥水が排出され、余掘り部に泥水から裏込め材への置き換えが 効果的に行われることが推察され、本工法における泥水排出孔の設置は、推進終了後の裏込め注入に非常に有益であることが明らかとなった。また、数値解析に より、裏込め注入時の地山の安定性に及ぼす地山特性、注入圧、裏込め材の力学的特性等の影響について検討した。その結果、周辺地山程度の強度の裏込め材を 充填すれば周辺地山の緩みおよび地表沈下が抑制可能であるともに、裏込め材の強度よりもむしろ適切な注入圧が周辺地山の安定性に大きく影響することが明ら かとなった。従って、周辺地山の安定性を確保し地表面沈下を抑制するためには、推進開始から裏込め注入材充填完了まで、泥水圧および裏込め材の注入圧を余 掘り部周辺地山に効果的に作用させ続けることにより、掘削に伴う周辺地山の緩みを発生させないことが重要であることを明らかにした。さらに、安価および資 源の有効利用という観点から、裏込め材としてフライアッシュセメントを取り上げ、フライアッシュセメントの裏込め注入への有用性について示した。

 第5章では、推進工法において有力な補助工法として用いられる薬液 注入工法について、効果的および経済的な施工指針確立のため、数値解析により薬液注入 時の浸透・固化挙動の解明ならびに薬液注入による地山の力学的改良効果について検討した。さらに、未固結薬液および固結体からの薬液成分の溶出挙動につい ても検討した。まず、薬液のゲル化特性を導入した注入薬液の浸透挙動シミュレーションから、薬液のゲル化時間に近づくにつれ、薬液浸透フロントから粘性係 数および流体圧とも漸次増大し固結に至る薬液の浸透挙動のメカニズムが明らかとなった。また、薬液の浸透・固化挙動に及ぼす地山特性、地下水流、ゲル化時 間等の各種諸条件の影響について明らかにした。次に、砂および固結砂の変形係数と拘束圧の関係を考慮した非線形2次元有限要素解析により、周辺地山の緩み および変位の抑制を目的とした薬液注入範囲の設計に関しては、地山特性および地山と薬液の固化体のヤング率と拘束圧の関係を十分考慮する必要があることが 分かった。最後に、未固結薬液および固結体からの薬液成分の溶出挙動シミュレーションから、薬液成分の溶出は地山の透水性および地下水流に大きく左右され るが、懸濁型薬液の先行注入による地山の実質的な透水性の低下や、地山に対して吸着作用の大きい薬液の選定により、薬液成分の周辺地山への流出を抑制出来 ることを示した。

 第6章では、研究成果を総括して結論とした。
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