論   文  要  旨

区分


(ふりがな)
氏      名
さかい てつろう
坂 井  哲 郎
論 文 題名
地下空間の最適設計における環境制御技術に関する研究



         論 文 内 容 の 要 旨

 従来、地下の開発は主として鉱山等の鉱物資源採掘の対象として取り扱 われてきたが、昨今、日本の狭い国土を反映し、また地下の安定性が着目され、ジオ・フロントとしての活用が注目されつつある。さらには地下の有効利用の観 点から、ジオ・フロントとしての活用が注目されつつある。しかし、一般に地下空間の開発・利用には、地上とは異なる防災上の特殊性が存在する。したがっ て、これらの特殊性を踏まえた最適設計のためには、地下環境制御技術が不可欠である。
 我国においては、本格的な石炭生産が開始されてから100年以上経過し、その間に、高温、高地圧、湧水、ガス湧出、複雑な地質条件等の生産阻害要因を克 服しながら、石炭採掘技術が蓄積されてきている。一方、一般土木地下施設の建設においては、このような厳しい環境下での経験に乏しく、近年公共地下施設は もとより一般土木地下施設の建設に当たっても、災害の防止と健康の維持に重点が置かれるようになってきた。
 筆者は以上のような背景の下、安全で快適な地下施設の設計に寄与するためには、長年にわたり蓄積されてきた坑内掘り石炭鉱山の操業技術を適用することが 効果的であると考え、土木技術への認識を深めると共に、数々の土木地下施設について、石炭技術の適用と応用を図ってきた。その過程において、特に通気技術 と保安技術が地下施設の設計に大きく寄与することが判明した。そこで、この両技術を安全性と合理性をキーワードとして「坑内環境制御技術」に再構築し、地 下施設への適用化を進めてきている。中でも本技術の中核をなすのが、坑内環境の把握や予測のための熱環境解析技術であり、また防災対策としての通気制御技 術である。
 本研究は、これらの技術の一般地下施設への適用化を図る上で直面した課題を整理し、実例をもとに解決を図ってきた研究の成果を、地下空間の最適設計と環 境制御技術に関する研究として纏めたものである。なお、本研究で対象とした地下施設での業務は、現場熱環境対策への寄与や適正通気計画の立案、防災計画上 適切なレイアウトの設計支援など、現場への寄与を第一義として実施したことが特徴である。

 本研究は、合理的且つ安全な地下施設設計に寄与するため、現在まで培われてきた石炭採掘技術を一般土木地下構築物に適用するに当たり課題となる項目を抽 出し、その対策を構築することを目的としている。本研究は概括して二つの研究テーマから構成され、第1のテーマは、地下の環境を把握し、予測する手段とし ての通気網解析技術の精度向上と実用化のための解析手法に関するものであり、第2のテーマは、これらの解析技術を用いて具体的に安全且つ合理的な地下施設 の防災対策を構築するに当たり、課題となる事項を抽出しそれに対する対策を明示すると共に、今後の地下施設設計のあり方を模索することにある。

 本文の具体的な内容を概述すると、まず第1章において、近年の地下空間活用への傾向とその課題について纏め、これらの地下空間に適用可能な技術として炭 鉱において蓄積されてきた技術と実際に地下空間建設を担う土木技術の相違と課題を纏め、既往の研究と本研究の目的について概括している。

 第2章では地下空間の熱環境を評価し、最適設計を行うための手段としての熱環境解析技術について、現場への適用例を挙げながらその課題と解決策について 纏めている。まず2.2項で中国の炭鉱をフィールドとして熱環境解析技術を初めて炭鉱の全山ベースで適用し、通気改善対策について検討した例を述べてい る。次に浅部小規模の坑内を持つ地下研究施設について微風速条件下での熱環境解析を実施し、扇風機を停止した時などの特殊条件下での気流挙動と熱環境の予 測手法についての研究を纏めている。最後の例として、世界でも例を見ない高温の地温条件を持つ日本の金属鉱山に熱環境解析手法を適用し、採掘後大空間の気 流挙動の熱問題を考慮した解析手法を検討すると共に、現場熱環境改善に効果のある通気改善方法について提言している。最後に現場の技術者が実際の現場への 熱環境解析の適用を行う上での解析アルゴリズムやプログラムの課題を抽出し、その解決を図っている。

 次に第3章では第2章で研究した坑内環境評価手法としての通気網解析技術を用い、一般土木地下構築物における地下空間の適正通気設計について、実例を挙 げて検討している。まず大空間とそれを取り巻く複雑な坑道群からなる地下施設について、熱挙動と粉じん挙動を念頭に置いた大規模な地下空間の気流挙動を簡 易に評価する手法としての疑似三次元通気網解析の適用を試み、その結果を建築分野で用いる二層ゾーン解析手法と通気網解析手法を融合したプログラム、及び 数値流体力学解析(Computational Fluid Dynamics – CFD)によって検証している。

 第4章では地下防災の観点から地下空間の最適設計と環境制御のあり方について検討している。その例として、立坑が主体の深地層の研究施設の例を用い、火 災が発生した時の火災ガスの挙動を把握することにより入坑者が安全に避難出来る通気制御方式と安全な地下施設のレイアウトについて研究の成果を纏め、炭鉱 の通気網解析技術がこれらの地下施設の設計に当たって極めて効果的な技術であることを立証している。また、今後の防災を考慮した地下施設の設計上考慮すべ き項目として、近年クローズアップされてきた地下施設建設中の解析技術を用いた粉じん対策への対処方法、地下の安全を確保するために必要不可欠の情報管理 システムのあり方について、提言を行っている。

 最後に第5章において、研究の総括を行っている。

 本研究は我が国における石炭産業の衰退を背景に、長年に亘り蓄積された炭鉱技術を資源産業から一般の地下産業に適用し、石炭産業で最大の課題であった防 災を考慮した地下施設の最適設計と環境制御の確立を目的として、特に通気網解析技術を活用した研究を行ったものである。その特徴として、現場的な環境改善 や通気コスト削減への貢献を念頭に置いており、実際に成果を挙げていることは特記するに値する事項である。
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