論   文  要  旨

区分


(ふりがな)
氏      名
ふなつ  たかひろ
 船 津   貴 弘
論 文 題名
地下利用のための岩石の破壊靱性に関する研究



         論 文 内 容 の 要 旨

 近年、憩いの空間の充実、都市景観の向上等都市の環境といった質の高 い都市生活への志向が高まっていく中で、安全で潤いのある生活空間の再生を図るためには、大深度(地下40m〜100m程度)地下を含めた地下空間を活用 した社会資本整備が有効な手段の一つとなってくると考えられる。大深度地下利用は、権利調整期間の短縮化、合理的なルートの選択、円滑な事業の実施、用地 費の低減、騒音・振動の軽減等による居住環境への影響の低減、耐震性の確保等を図ることができ、良質な社会資本の効率的・効果的整備に寄与するものと考え られる。さらに、地上にある設備を地下化することにより、地上をゆとりある空間として、緑、せせらぎを取り戻し、都市の美観・環境を回復するとともに、安 全歩行者空間の創出、防災空間を形成する等、地上の都市空間を再生させて質の高い都市生活の実現を目指していくという観点も持っている。平成12年5月に は、「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」が公布され、大深度の利用が今後さらに活発化するものと考えられる。また、原子力発電に用いられた後、 原子炉から取り出された燃料を化学的に処理し、未使用のウランや生成したプルトニウムを取り出し、燃料として再び用いる過程で高い放射能を持つ高レベル放 射性廃液が残る。この廃液を溶融したガラスと混合して、ステンレス鋼製の容器の中に注入しその中で固化して、物理的にも化学的にも安定な形態の高レベル放 射性廃棄物としたものを、地下数百メートル以深の地層において、人工的な複数の防護壁と地層を組み合わせた地層処分システムによって生活環境に影響がない ように隔離埋設される。これが高レベル放射性廃棄物の地層処分であり、将来の操業が計画されている。

 高レベル放射性廃棄物は、放射能が高く、その放射能による潜在的な危険性が長期にわたるという性質を持つことから、地層処分に際しては極めて高い安全性 が要求される。

 従来、応力やひずみをパラメータとして行なわれてきた地下岩盤構造物の設計や健全性の評価に、欠陥を考慮した破壊力学的手法を導入することは、その精度 や合理性を高める上で極めて重要である。このような認識のもと、岩石の破壊靭性に関する研究が行われてきているが、それらの大部分は室温・大気圧条件下で 行なわれている。ところが、地下岩盤構造物の長期的利用を考慮する場合、地下の環境条件や外力条件により潜在き裂の寸法や形状、密度などが変化する。した がって、岩石の破壊靭性に及ぼす環境および外力の影響に関する検討が重要である。また、我が国の放射性廃棄物の地層処分では、その実施場所の選定にあた り、現在、花崗岩を中心とした結晶質岩層と砂岩、凝灰岩を中心とした堆積岩層の両方を検討しており、今後いずれかを選択するとされている。ところが、岩石 の破壊靱性に関し従来行なわれてきた研究においては、研究対象に主として花崗岩などの結晶質岩が用いられていること、試験条件が限られていること、さら に、き裂の進展様式では開口型を対象としたものが大部分であることから、堆積性岩石の破壊靭性が環境や外力の条件により如何なる影響を受けるかについて、 十分に明らかにされているとは言いがたいのが現状である。したがって、本研究では、1)堆積性岩石を用いること、2)温度と封圧を考慮した条件下で試験を 行なうこと、3)温度と封圧を同時に作用させた条件下で試験を行なうこと、4)モードI破壊靭性のみならずモードII破壊靭性、さらに混合モード破壊靭性 を対象とすること、の以上4点の従来研究対象とされてこなかった分野を対象とした検討を行った。

 本論文は、全7章より構成されている。
 第1章「緒論」では、研究の背景と既往の研究について整理するとと もに、本研究の目的と構成について記した。

 第2章「岩石の破壊靭性に関する理論的背景および破壊靭性試験法」 では、破壊靭性に関する理論的背景である破壊力学と破壊靭性試験法について述べるとと もに、破壊靭性試験に用いた装置と計測システムおよび試験の手順について述べた。その後、岩石の破壊靭性に関する基礎的事項として、破壊靭性に及ぼす試験 片寸法、ノッチ長さ、載荷速度の影響に関する実験による検討結果およびISRMが推奨する破壊靭性試験法を行った。その結果、本研究で用いた岩石試料に は、力学的異方性が存在すること、および、安定した破壊靱性を得るための試験片寸法、ノッチ長さ、載荷速度を決定した。

 第3章「岩石のモードI破壊靭性に及ぼす温度の影響」では、 SENRBB試験とSCB試験による破壊靭性試験を行ない、温度の変化が岩石の破壊靭性に及 ぼす影響についての検討を行った。その結果、SENRBB試験とSCB試験により得られた破壊靱性の値が同程度をとることを示した。また、来待砂岩の破壊 靱性が125℃以上では温度の上昇に伴い増加すること、田下凝灰岩の破壊靱性が室温から50℃への温度上昇に伴い減少するが、温度125℃以上では温度の 上昇に伴い増加することを明らかにした。さらに、複数の温度条件下で来待砂岩、田下凝灰岩の重量、ヤング率の計測及び顕微鏡を用いた試験片の表面観察によ り、温度の変化に伴う破壊靱性の変化が、鉱物粒子の熱膨張によるマイクロクラックの発生と粘土鉱物に存在している吸着水や層間水の脱水に起因することを推 察した。

 第4章「岩石のモードI破壊靭性に及ぼす封圧の影響」では、 SENRBB試験片を用いた破壊靭性試験を実施し、封圧の変化が岩石の破壊靭性に及ぼす影響 について検討した。その結果、来待砂岩と田下凝灰岩の破壊靱性は封圧の上昇とともに増加すること、及び、封圧と破壊靱性との関係が上に凸の関係であること を明らかにした。

 第5章「温度・封圧複合環境下における岩石のモードI破壊靭性」で は、SENRBB試験片を用いた破壊靭性試験を実施し、温度と封圧が岩石に対して同時 に作用する場合の破壊靭性の変化を検討した。その結果、封圧下における来待砂岩の破壊靱性が、室温から50℃へと温度が上昇するとともに減少すること、一 方、75℃から100℃へと温度が上昇すると増加することを示し、温度の変化が岩石の破壊靱性に及ぼす影響が大気圧下と封圧下では異なることを明らかにし た。

 第6章「岩石の混合モード(I-II)・モードII破壊靭性に及ぼ す温度および封圧の影響」では、SCB試験片を用いた破壊靭性試験を実施し、温度や封 圧が岩石の混合モードとモードII破壊靭性に及ぼす影響を検討した。その結果、来待砂岩の混合モード及びモードII破壊靭性は温度が室温から75℃へ上昇 すると減少するが、混合モード破壊靭性の場合には75℃より高い温度で、モードII破壊靭性の場合には150℃より高い温度で温度の上昇とともに破壊靭性 は増加すること明らかにした。また、来待砂岩の混合モード及びモードII破壊靭性は封圧の上昇とともに増加することを明らかにした。一方で、大気圧下とは 異なり、温度、封圧複合環境下におけるモードII破壊靭性は室温〜100oCの範囲では一定の値を示した、混合モード破壊靭性は、封圧1MPa、 2.5MPaの場合、モードII破壊靭性と同様に室温〜100oCの範囲で一定の値を示したが、封圧5MPaの場合、室温から50oCへと温度が上昇する と破壊靭性の減少が確認された。

 第7章「結論」では、本論文で得られた知見を総括した。
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