論   文  要  旨

区分


(ふりがな)
氏      名
こ  が   まこと
古  賀    誠
論 文 題名
グラウト材の地盤中への浸透・充填過程に関する研究



         論 文 内 容 の 要 旨

 グラウチングとは,グラウト材の加圧注入により岩盤中の空隙を充填 し,岩盤を固密化・一体化・均質化することにより,岩盤の透水性や力学的特性を改良することを目的とした工法である。グラウチングが,このような工法であ ることから近年では放射性廃棄物の地下処分場において,放射性物質の処分場周辺岩盤への拡散防止のため,周辺岩盤へのグラウチングが必要に応じて計画され ている。しかしながら,グラウト注入孔の間隔や注入圧力,グラウト材の配合等の現場施工方法の最適性については,現場技術者の経験に大きく依存しているの が現状である。この原因としては,岩盤中のき裂や水みちなどの推定が困難であること,また,グラウト材の浸透・硬化の過程が不明確であることなどがあげら れる。このため,設定された施工仕様による改良効果の事前予測が難しく,現場技術者の経験に依存した施工方法となっていると考えられる。しかし,合理的か つ経済的なグラウチングを行うためには,これらの問題点を解決し,グラウチング施工の計画指針になるような数値モデルの確立が望まれている。

 ダムグラウチングにおけるグラウト材としては,セメントをベースにしたグラウト材,つまり水にセメント,少量のベントナイトおよび分散剤などを混ぜ合わ せたグラウト材が多く使用され,このグラウト材は水溶液中にセメント粒子が浮遊した懸濁型の溶液である。このようなグラウト材の土質地盤あるいは岩盤中へ の注入過程を考えた場合,以下の3つの過程に大別することができる。ひとつは,グラウト材中に浮遊しているセメント粒子が地盤中を輸送されていく過程であ り,ふたつめは土質地盤中の土質粒子表面あるいは岩盤中のき裂表面においてセメント粒子が付着する過程,すなわちセメント粒子の地盤空隙への充填過程であ る。そして,最後が地盤空隙へ充填されたグラウト材が硬化していく過程ある。
 そこで,本研究はグラウト材の注入による地盤中でのグラウト材の浸透過程および地盤空隙へのセメント粒子の充填過程を実験的,理論的に解明することを目 的としたものである。また,これらの結果より地盤中でのグラウト材の浸透・充填過程を表すモデルを確立し,現場への適用性について検討を行ったものであ る

 本論文は7章より構成される。
 第1章は緒論であり,本研究の目的および従来からの研究について述 べた。

 第2章では,グラウト材の地盤間隙内での流動性を評価するために, 室内試験としてブリージング試験とB型粘度計を用いた粘性試験を実施した。ブリージン グ試験では,セメント濃度が濃くなるほどブリージングには長時間要することを明らかにするとともに,ベントナイトを混ぜ合わせたグラウト材では,セメント から発生する電解質により粘土粒子が多量の水を含んで凝集して沈降するため,ベントナイトを混ぜていないグラウト材に比較してブリージング現象が複雑にな ることを明らかにした。また,粘性試験結果から得られる塑性粘度および降伏応力はセメント粒子の体積濃度の増大とともに大きくなることを明らかにした。特 に,セメント粒子の体積濃度が,塑性粘度では17〜25%,降伏応力では10〜25%の間で大きく変化していること,またこの傾向はベントナイトを混合さ せたグラウト材において顕著であることを明らかにした。

 第3章では,グラウト注入に及ぼすグラウト材の配合による影響を検 討するため,マサ土粒子を用いて模擬地盤を作製して,一方向から低圧力でグラウト材を 注入する注入実験を4種類の配合のグラウト材に対して実施した。その結果,セメント粒子がマサ土試料間の間隙に充填していくため,流量は時間の経過ととも に減少するが,その傾向はセメント濃度が濃いほど急激であることを明らかにした。また,注入実験における水頭の結果から低濃度のグラウト材の注入はセル全 域の間隙を一様に閉塞していくこと,逆に高濃度のグラウト材はマサ土試料の表層に堆積層が形成されやすいことが推定されるとともに,水セメント比W:C= 10:1および2:1の2つのグラウト材を注入した試料に対してX線CTスキャナーを用いて内部観察を実施し,この推定結果の妥当性について確認した。さ らに,本研究において実施したグラウト材の注入実験結果は,Hermans・Bredéeが定圧ろ過において提案した標準閉塞モデルに従うことを明らかに した。

 第4章では,第3章の成果を踏まえて,ろ過理論を導入したグラウト 材の注入解析手法について述べるとともに一次元のグラウト注入解析を行い,グラウト材 の浸透過程およびセメント粒子の充填過程を理論的に解明した。グラウト材の注入解析は,地盤間隙の閉塞過程を表す理論式とグラウト材の浸透過程を表す理論 式を合わせて解くことで行われ,間隙閉塞の理論式はろ過理論とセメント粒子の輸送方程式から導き出されること,またグラウト材浸透の理論式はセメントを ベースにしたグラウト材がビンガム流動することから円管内におけるビンガム塑性方程式をもとに導き出されることについて述べた。また,注入解析結果から, 改良範囲の大きさに適したグラウト材の配合が存在すること,また低濃度のグラウト材を注入して改良範囲を確保し,その後注入したグラウト材を高濃度にでき れば,より効果的なグラウチングが可能となることが明らかになった。

 第5章では,第4章で示したグラウト材の注入解析手法を第3章で 行った注入実験に適用し,本解析手法の適用性について検討した。はじめに,注入実験結果 からろ過係数を算定する方法について,Hermans・Bredéeが提案した標準閉塞モデルを用いた方法について提案するとともに,ろ過係数を実際に算 定した。その結果,本実験におけるろ過係数は0.05〜0.1であり,グラウト材の配合による差は小さいことが明らかになった。また,このろ過係数と第2 章で求めた塑性粘度および降伏応力を用いて注入実験の解析を行った結果,B型粘度計を用いた粘度測定では,いくつかのセメント粒子が団粒状態となることに より,塑性粘度が過大評価されていることが明らかになった。そして,地盤間隙中を流れるグラウト材の塑性粘度は,森・乙竹が導き出した理論塑性粘度式に従 うことを明らかにするとともに,この理論式を用いて注入解析を行い,解析結果と実験結果が一致することを示した。さらに,注入実験と注入解析結果を比較す ることで,注入実験においける間隙閉塞メカニズムが注入の前半から後半部分にかけて変化することを明らかにした。

 第6章では,第5章での成果を踏まえて,本解析手法を現場データに 適用し,実用性について検討した。まずは対象とした現場におけるグラウト注入形態を分 類した結果,大きく3つの注入形態に分類すること可能であることを明らかにするとともに,この現場において,各注入形態が多く発生している場所には,それ ぞれ特徴があることを明らかにした。また,全ルジオン試験結果をまとめたところ,注入水が層流状態で注入されるには,現場特有の条件が存在することを明ら かにした。また,3つに分類した注入形態のひとつに対して注入解析を実施し,実測データとよく一致した解析結果を得ることができることを示し,本解析手法 の実用性について明らかにするとともに,ろ過係数は深度およびRQDの増加とともに,増大する傾向にあることを明らかにした。

 第7章は結論であり,各章での結果をまとめるとともに,今後の課題 について述べた。
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