岩盤・開発機械システム工学研究室
の従来および今後の展開


九州大学大学院工学研究院 地球資源システム工学部門
資源システム工学講座 岩盤・開発機械システム工学研究室


岩盤・開発機械システム工学研究室では、これまで主に石炭鉱山、石灰石鉱山等における岩盤工学の諸問題を対象とした実用的な研究に取り組んできたが、国内資源産業の斜陽化に伴い、これまでの研究を基礎として海外への展開、すなわち海外の研究機関、大学、企業との共同研究をはじめ、都市ライフラインの開発やそれに伴う環境問題などにも研究対象を拡げつつある。主な研究テーマを下記に示す。

【現在実施している代表的な研究テーマ】
ハイウォールマイニングシステムにおける掘削空洞の安定性
ハイウォールマイニングは、露天掘りの石炭鉱山において採掘が終了した残壁(ハイウォール)に未採掘のまま残された大量の石炭の採掘に適用される採炭システムである。ハイウォールマイニングにおいて用いられる採炭機としては、マイニングシステムによって異なるが、オーガーシステムではオーガーが、AddcarシステムやArchveyorシステムではコンティニュアスマイナが用いられている。特に、Archveyorシステムでは、最先端の種々の技術やシステムの導入が図られ、ほとんど採炭の完全自動化が成されて、高い生産性と安全性を上げている。そこで、海外との共同研究をベースにしてハイウォールマイニングにおける採掘空洞の安定性ならびに採掘実収率を増大させるための採掘空洞充填の効果と問題点について種々検討している。
フライアッシュセメントの有効利用技術の開発に関する研究
トンネル覆工では、覆工背面と地山との間に空隙が生じないように施工しなければならない。このため、余掘りがある場合には、そこに良質のズリを詰め込む方法もあるが、最近ではコンクリート打設時に覆工厚外までコンクリートを充填し、その後に残る空隙は覆工後にモルタル等を注入して充填されることが多くなっている。そこで、このようなフライアッシュ充填作業に関して、泥濃式推進工法の裏込め材やダムサイトのグラウト後に形成した空隙やシラス台地に多数存在する空洞、石炭鉱山の払跡への充填材としてのフライアッシュセメントの適用可否に関する検討を行っている。
グラウト材の地盤注入時における流動挙動の解明
グラウト材の土質地盤あるいは岩盤中への注入過程を考えた場合、以下の3つの過程に大別することができる。すなわち、グラウト材中に浮遊しているセメント粒子が地盤中を輸送されていく過程、土質地盤中の土質粒子表面あるいは岩盤中の亀裂表面においてセメント粒子が付着する過程すなわちセメント粒子の地盤空隙への充填過程、地盤空隙へ充填されたグラウト材が硬化していく過程である。そこで、グラウト材の注入による地盤中でのグラウト材の浸透過程および地盤空隙へのセメント粒子の充填過程を実験的・理論的に解明するために種々の検討を行っている。
薬液注入後の地山の安定性ならびに周辺環境への影響に関する研究
切羽が自立しない軟弱土や滞水砂層および砂礫層などに推進工法などによる管埋設施工をする場合、止水および地山の安定性の確保を目的として薬液注入工法が用いられる。しかしながら、施工現場の多くが都市部に集中することから、薬液が固結せず周辺地山へ流出すれば、水質汚染・土壌汚染の原因となり、周辺環境さらには人体へ深刻な被害を及ぼすことが懸念される。このため、未固結薬液の短期および長期的な浸透挙動ならびに流出した薬液が周辺地山に及ぼす影響を検討している。
小口径推進トンネルの設計・施工に関する研究
わが国は、国土が狭い上に都市に人口や経済拠点が集中し、過密な都市構造となっている。この都市構造の中では、上下水道、ガス、電力、通信ケーブル等のライフラインの管埋設や洞道工事は、都市部の地下浅部空間に施工せざるを得ない。このような長距離、曲線推進現場への適用を目指したものが、近年発展のめざましい小口径推進工法である。しかし、これまで工学的に脚光を浴びなかったため、既に数多くの施工実績はあるものの系統的かつ普遍的な検討が見られず、現場経験に依っている場合が多い。そこで、地山の安定性、低推力推進システム、低推力泥水の開発等の多くの未解決の課題について検討を行っている。
種々の環境下における岩石の破壊靭性値の評価に関する研究
 高レベル放射性廃棄物の地層処分やLPG、LNGの地下貯蔵の長期的な利用に関しては、その精密設計や健全性の評価が改めて問題となっている。 岩石中のき裂の進展に対する抵抗値としての破壊靭性を定量的に評価することが岩盤構造物の長期安定性を考える上で重要となる。 外力条件として地下深部における地山応力、環境条件として地下深部の地温や廃棄体から放出される熱や地下水等が挙げられ、これらの外力や環境が岩石の破壊靭性に及ぼす影響について考慮する必要性がある。 そこで、産総研と共同で温度と封圧を変化させて各種破壊靭性試験を行い、種々の環境下において破壊靭性値がどのように変化するのかについて検討している。
粘土質岩石における耐スレ−キング性の評価
スレ−キング試験は、一般に動的試験と静的試験の2つの形態に大別できる。広く知られている動的試験は、ISRMによって既に基準化されている。しかしながら、静的試験については、未だ確立された試験方法は存在しないため、耐スレ−キング性試験の不十分な点を補足し試験法を確率するために種々の検討を行っている。
岩石の動的破壊挙動の解明
発破現象の数値解析的把握のために、動的引張強度を導入することの重要性が指摘されて以来、動的引張強度に関する研究が数多く実施されてきた。しかしながら、同一種類の岩石試料を用いて動的引張強度と応力速度との関係について十分に議論されてはいない。本研究では、従来の方法よりも大きな衝撃エネルギーを岩石試料に作用させることが可能で、かつ動的荷重の制御が容易である実験装置を提案し、動的引張強度と応力速度との関係を広い応力速度領域で求める。同時に数値解析のベンチマークテストとしての岩石破壊挙動のデータ収集する。
爆轟現象・起爆過程の数値解析
  爆薬は瞬時に高エネルギーを解放する物質であり、資源、土木分野から宇宙開発まで幅広い分野に応用されている。爆薬の有効利用を考えた場合、多くの場合において周辺媒体に発生する衝撃波の制御が必要となる。これは爆発後に周辺媒体中に発生した衝撃波の制御であるが、精密なエネルギーの制御は、衝撃起爆過程を考慮して実験条件を設定し、装置を設計することにより可能になる。同時に、複雑な物理現象を応用するため、その設計には数値解析技術の導入が必要である。本研究では爆薬の反応過程から解放される衝撃エネルギーを評価するための数値解析コードの開発とともに爆轟や起爆現象の解明を目指している。


担当している教育分野についての将来計画
 これまで、資源の開発に必要な岩盤工学および開発機械システム工学を担ってきた。この教育分野は、資源開発分野のみならず、土木・環境の分野でも十分対応できる。そこで、岩盤工学はもちろん地盤工学、土質工学をも含めた教育を行 いたいと考えている。

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